打ち合わせ
「じゃ、俺帰りますんで」
安岡はそう告げてから、
「…あれ、雄二郎さんは帰らないんスか?」
ふと、思い付いた疑問を口にした。
「ああ。福田くんと打ち合わせをちょっと、ね」
先程やっとのことで脱稿した原稿を、これから印刷所へ入稿するのが編集の仕事だ。何故こんなタイミングで打ち合わせ…?と安岡は一瞬不思議に思ったが、
(それだけ、雄二郎さんもうちの先生の情熱にほだされて…?)
「…俺も参加しましょうか?」
過日の打ち合わせで福田から貰った「ナイスアイデア賞」にすっかり味をしめた彼はそう、申し出たけれど、
「…っ!い、いや。今日はいいよ。安岡くんも疲れてるだろうし」
「そうスか?」
「本当、スケジュールの確認とかで、たいした話じゃないんだ。すぐ済む話だよ」
「じゃ、失礼します」
「お疲れさん」
安岡を見送ると、慌てて雄二郎は踵を返した。
(もう、寝ちゃったか?)
奥の寝室に向かうと、福田は既に布団に入って半身を起こした状態…今まさに、身を横たえようとする、すんでのところだった。
「福田くん!」
「…あれ?まだいたんスか?」
すげない返事を気にしたふうでもなく、雄二郎は話し続けた。
「今日はこれから、入稿に行かないといけないけど、明日は…ね?」
「…分かってますよ。そんな、何度も言わなくても」
徹夜明け…久しぶりの入眠を邪魔されて、さすがに福田は眉間にシワを寄せ、担当編集者を睨み付けた。しかし、にじり寄ってきた相手が伸ばした手に軽く、アゴをつかまれると素直にまぶたを伏せた。
「…じゃあ、続きは明日で…。お休み」
唇を離して微笑みながらそう告げると、雄二郎は慌しく部屋を出て行った。
「……」
福田は座った体勢のまま、しばらくしてから身を横たえた。
(…これから寝ようって時に…キスなんかすんじゃねーよ)
さっきの感触を思い出したり、明日の「続き」のことを考えたり。そんなこんなですっかり昂ってしまった気持ちを持て余しながら、福田は両目を閉じた。