心遣い
打ち合わせが終わり、帰ろうとしたら、
「雄二郎さん、ちょっと待って下さい」
新妻くんに呼び止められた。
「何?」
彼は、いったんキッチンの方へ行き、スーパーの袋を提げてきてそれを、僕に差し出した。受け取ると、ずっしり重い。
「田舎から送ってきたりんごです」
正直、これを編集部までもって帰るなんて重たくてしょうがないんだけど、作家先生…それも、既に人気を確立したと言って過言ではない彼の、厚意を無下にする訳にもいかない。
「あぁ、ありがとう」
「福田先生に渡して下さい」
はぁ?
「…何、で?」
「福田先生、連載を始める為にここを辞めて、逢えないからです」
それなら、福田くんの住所を教えるから、宅配便で送ってくれよ…と思ったけれど…もしかすると、宅配便の出し方が分からないのかもしれない。新妻くんなら、十分あり得る…。そこまで考えてから、ふと、
「そういや、中井くんには、いい訳?」
福田くん同様、連載を始める為にここを辞めた中井くんにも、結構世話になった訳だし。
「中井先生には、宅配で送りました」
「知ってるの?出し方」
じゃあ、何で福田くんだけ、僕任せな訳?その疑問が、声に出さずとも伝わったようで、
「福田先生は…」
新妻くんはそこまで言ってから、アシスタント達のいる、奥の部屋の方をチラ見して声を潜め、
「雄二郎さんから貰った方が、嬉しいです」
それ、どういう意味~!?
「では、お願いします」
そう言うと、新妻くんは踵を返していった。
(……ばれてる、のか?)
僕達の、関係が。
よろよろとした足取りで僕は、マンションを後にした。