おねだり
「広島から持ってこなかったのかい?」
福田の部屋を物色していた雄二郎がふと訊いてきたので、
「…何、を?」
傍らでパラパラと、気の乗らないふうで雑誌のページをめくっていた福田が問うと、
「アルバム」
「…アルバム?」
「そう。高校の卒業アルバムとか」
「…そういうのは全部、置いてきた」
漫画家として成功する未来の為に、東京に出てきたのだ。過去の感傷に浸る為のアルバムなど…無用の長物だった。少なくとも、広島を離れる時点での福田にとっては。
「それは残念」
そう言う雄二郎を見て、福田は思った。むしろ雄二郎のアルバムをこそ、見てみたいものだと。
(…一体いつからこの頭なんだ?)
「俺のアルバムなんか見て、どーすんの?雄二郎さん」
「え?そりゃー、まぁ…。付き合い始めたら、アルバムとか見たり見せたり、しなかった?」
「……しなかった」
「……そう」
「…見たい?」
しばし、場を沈黙が支配した後に福田が不意にそう呟くと、
「勿論!」
即答が返ってきた。
「…お袋に頼んどく。今度、荷物送って貰うついでの時に…って」
「楽しみだなぁ。…かわいいんだろうな、きっと」
「……」
いくばくかの気恥ずかしさと、それを大きく上回る幸福感。しかし福田はあえて、それらの感情の源たる男には目を向けようとはせず、大して面白くもない雑誌を読む「ふり」を続けることで、照れ隠しをした。