Knight
映画館の窓口で、前売り券を座席指定券に引き換えるって時。
「あ…通路に面してる席と、その隣り…でお願いします」
僕はそう、指定した。
入場開始を告げるアナウンスが流れ、係員に指定券を2枚もぎらせていざ、シアターの中に入ると僕は、先に座席に座り、その隣りの通路に面した席に座るよう、福田くんに促した。
「…俺が、通路側な訳?」
「そう」
「…雄二郎さんのが、画面中央に近いじゃん」
「細かいことにこだわるなぁ」
僕はことさら呆れたふうに呟いて、
「今日は僕の奢りなんだし…。年長者の言うことは聞くもんだよ」
本当は、瓶子さんにタダで貰った券なんだけど、そのことは黙っておいた。
「大体、そっちの方がトイレとか行き易くていいだろ?」
「…おっさんと一緒にすんな。そんなに近くねーよ」
結局、ぶつぶつ言いながらも福田くんは通路側の席に座った。そしてしばらくして暗くなり、予告が始まると、
「雄二郎さん」
僕の膝上のポップコーンに手を突っ込みつつ、小声で話しかけてきた。
「何?」
「…俺、女じゃねーんだから…変な気、遣わなくていいんだぜ?」
「…っ」
僕の…「恋人を、隣り合わせたよその男の接触からカヴァーしたい」という気持ちは、バレバレだったらしい。結局、僕の反対側の隣りの席は売れ残ったかして空席…福田くんを通路側に座らせた配慮は、無駄になった訳だけど。
「女の子でなくても」
僕も小声で、囁き返す。
「…『大事な恋人』には、違いないだろ?・・・嫌なんだよ、僕以外の誰かが、君に触れるのが」
「…潔癖」
くすくすと、笑う気配がする。僕は照れ臭いし、笑われてちょっと腹立たしいやらで、あえて隣りに視線を向けず、くだらなそうな予告をまっすぐ、眺めていた。すると…
「…っ!」
頬に、キスされた感触。びっくりして隣りを見遣ると、
「…安心しろ。誰にも触らせねーから」