call
出来上がり済の2人…です。
「福田さん」
いかにも女性的な部屋になんだか居心地の悪い思いをしていたら、蒼樹嬢に突然呼びかけられた。彼女はトレイに載せてこっちに運んできたコーヒーを俺の前に差し出してから、
「…お願いがあります」
そう切り出した。
改めて「お願い」だなんて、真剣な顔で言われると何だか怖い。
「…何?蒼樹嬢」
「その…『蒼樹嬢』を、止めて欲しいんです」
「?」
精一杯、俺なりに礼をつくした言い方なんだけど…まずかったか?そう思って黙ってたら、
「…名前で、呼んで欲しいんです」
…はぁ?
「それは…『紅さん』ってことか?」
「いえ。できれば…『優梨子』で」
ああ、そうか。彼女はペンネームだったな。一応「付き合い始めた」というのに、そのことを俺は、深く考えてなかった。…これって結構、「酷い」か?
「…悪かった。気付かなくて」
「いえ」
そう言って、彼女は微笑む。本当、初めて会った頃を思えば角がとれて丸くなったというか…。
彼女が、新しい「呼び名」を今すぐ口にするのを期待してると気付いて俺は、
「じゃあ、『優梨子さん』」
「…?なんで、『さん』づけなんですか?」
「え?そりゃぁ…いきなり呼び捨てはちょっと…。あんたのが年上なんだし」
あ、やばい。表情が曇った。確かに大した差でもないのに、「年上」を強調したのはまずかったか?
「大体、あんただって俺のこと、名字で呼んでるじゃねーか」
「…『真太さん』」
…女って、順応はぇ~。
「分かったよ、降参。……『優梨子』。これでいいか?」
「……はい」
嬉しそうに頬を赤らめて…。俺は「コーヒーが冷めるな…」と思いつつ、今は飲んでる場合じゃないと、目の前の彼女に腕を伸ばして抱き寄せた。