Tea Time
蒼樹嬢視点
インターフォンを押して、ドキドキしながら名乗った。
「…蒼樹です」
ガチャリとドアの開く音がして、中から福田真太が顔を出した。
「どーぞ」
「…お邪魔します」
「どっか、適当なとこ座って。今、お茶淹れるから」
「どうぞ、お構いなく」
部屋に響くのは、ポットでお湯を注ぐコポコポという音だけ。改めて、本当に二人っきりなんだな…と実感する。知った上で訪れた訳だけれども。
「…安岡のが、うまいんだけどな」
お盆がないのか、直に湯呑みを二つ、握りながらこちらにやって来た福田真太がそう呟いた。
「お茶淹れるの。…ああ、安岡ってのは、俺のアシスタント」
説明しつつ、お茶を置いた彼がいきなり、
「…嫌か?」
「え?何が…ですか?」
意味がとれずに問うと、
「…俺が直に、もってきた」
湯呑みのことか。私は合点して…全然、嫌に感じてない自分に驚いた。
「構いません。…お盆がないのは、どうかと思いますけど」
「安岡のやつが何処かにしまいやがって…。家主が分からねーよーなとこ、しまうなっての!」
私がくすりと笑うと、福田真太が何故だかじっとこちらを見つめてきたので…どぎまぎしてしまった。
「…どうかしましたか?福田さん」
「…いや、何でもない」
「言って下さい。気になります」
そう言うと、福田真太はう~んと困ったような声をあげて、
「言ったら、あんた怒るよ」
「怒りません」
疑念に満ちた表情をしながら、福田真太は口を開いた。
「…『意外だな』って。あんたが…男の一人暮らしの部屋に上がりこむなんて」
「…っ!」
かぁっと、顔が熱くなった。
「責めてる訳じゃねーんだ!気を、悪くしないでくれ!その…何だ、俺達は…仲間な訳だ。同じ、ジャンプでやっていこうっていう。だからこうして、研究の為に会ってる訳であって…」
「そ、そうです!研究の為です!」
お互いちょうど都合のいい時間…それが、彼のアシスタントのいない時間で、結果「二人っきりになる」と知って……実は嬉しかったのは、内緒だ。
「んじゃ、そろそろ本題に入るか。資料もあるし、あっちの作業部屋で。あんたは安岡の机、使ってくれ」
「…はい」
私は、立ち上がって福田真太の後について歩き出した。あっという間に過ぎてしまったお茶の時間を、名残惜しく思いつつ…。