wish
初詣の人出でごったがえす境内。賽銭を投げ、手を合わせて願い事を念じながら、僕はちらりと傍らの恋人の顔を盗み見た。
(…きれいな顔だ)
今更ながら、しみじみそう思う。一体、福田くんは何を願ったのだろうか?
「え?ヒット祈願に決まってるじゃないっスか」
ひと休みがてら入った近くのカフェで、何気に聞き出した答えに僕はがっかりした。
(ま、そりゃそうだろうな…。でも…)
僕は、二人の仲が円満で、長続きすることを願ったのだ。相手が、欠片も自分の想いに準じることを願わなかったという事実には、へこまされてしまう。
「何?雄二郎さん。新年早々暗いじゃん」
(…誰のせいだと…)
「…ヒットして欲しくねーのか?」
「そんな事ないよ!僕は担当…他の誰より、ヒットを願ってるさ」
でも…同時に僕は、恋人でもある訳で…。
お互いコーヒーを飲み干すと、
「…混んできてるし。早く出ようぜ」
福田くんがそう促すので、僕らは早々にカフェを出た。そしてまだ暗い道をしばらく黙って歩いた後、
「ヒットすりゃあ…あんたの成績も上がるんだろ?」
不意に、福田くんが呟いた。…僕の為でもある、と?
「それに…『こりゃ、いいコンビだ』ってことになりゃちょっとは担当替え、回避できねーか?」
人気作家さんでも容赦なく担当替えがある訳だから、それは難しいだろうけどでも、僕と離れたくないなんてそんな、かわいい主旨のことを言われたら…。
「福田くん」
「何?」
「早く…部屋に…」
キスがしたい。いや…有体に言えば、それ以上のことがしたい。思いを込めた目で見つめると、
「…俺も」
小声で彼が、囁き返した。なんだ。結局僕ら…「通じ合ってる」じゃないか。これ以上ないって位。
人出をかき分けるようにして、僕らは家路を急いだ。