俄探偵ASHIROGI
本誌ネタバレですので単行本派の方はご注意。
「そーいやさ、蒼樹さんの話なんだけど」
仕事場で、港浦に提出するネームについてあれこれ話し合った後、コーヒー淹れて休憩って段に、高木がふと、真城に語りかけた。
「何?シュージン。未練な訳?…見吉に悪いだろ?」
「違う!その、見吉自身に聞いた話なんだから」
そう言われたら、真城も安心して聞けるので、
「何だよ?」
続きを促した。
「あの二人、結構仲良くなって、この前蒼樹さんちに見吉、遊びに行ったんだって」
「へー。それで?」
「聞いて驚くなよ」
高木はもったいぶってそう言った後、
「見吉がトイレ借りたら……便座が上がってたんだって!」
「……お父さんでも、来てたんじゃねーの?」
「だから、見吉も気になって、それとなく聞き出したんだけど、『別に最近、家族が来たりはしてないですけど?』って言ってたんだって!」
「……編集さんとか?」
「蒼樹さん、若い女の子だから編集の方が遠慮して、普通家には上がらないって!打ち合わせは外だよ。絶対」
「……じゃあ、やっぱ彼氏?」
真城が言うと、
「だよなぁ~。それっぽいよな~」
そう言う高木の表情は、真城にはなんだか悔しげに見えたけれど、指摘するのは止めておいた。
「あの、蒼樹さんに彼氏…どんな人だろ?」
「俺も気になってるんだけど…ひとつ、心当たりが。それでサイコー、お前に協力して欲しいんだ」
「えっ?俺に?」
意外な展開に、真城は素っ頓狂な声をあげた。
「話したろ?ファミレスで福田さんがそれこそ見事な『騎士(ナイト)』っぷり発揮してたって」
「ああ。確か、『俺がパンチラの描き方を教えてやる』だっけ?」
台詞だけだと全然、「騎士」とは程遠いんだけど…という、話を伝え聞いた当時の感想を真城は思い出した。
「だから俺……福田さんじゃないかって思うんだ」
「福田さん?」
「そう。それで、福田さんとはお前のが仲いいじゃん。だから…電話でそれとなく、訊いて貰えないか?『蒼樹さんと付き合ってるんですか?』って」
「それの何処が、『それとなく』なんだよ!?」
高木の矛盾した物言いに、思わず真城は突っ込んだ。
「だいいちなんでそんなこと、知りたがるんだ…やっぱ、未練か?」
「違う!…俺が気になってるのも確かだけど…見吉にも、せっつかれてるんだ。あいつも相当、気になってるらしくて」
…結婚する前から既に、尻にひかれてるじゃないか…と、真城は内心呆れたけれど…。自分もちょっと、気になるのは確かだった。
「じゃあ…訊ける範囲内で…って事でいいか?」
「いい、いい!ありがと!サイコー」
それから真城は福田の携帯を鳴らし、「ちょっと、年上…21、2位の男性のリサーチが必要でして…」などと言って、ひとしきり話をしたが、やはり「それとなく」でも訊き難い話題だ。しかし、いつまでも話し続ける訳にはいかないし、隣りで高木は催促顔をしてるしで…。
「…福田さん」
「何だよ?」
「……トイレの小の時って、便座上げて立ってします?それとも、座ってします?」
「男が座ってするのは大の時だけ!座ってしょんべんなんて女々しいこと、出来るか!」
「…はぁ。そう、ですよね…。どーも、助かりました。参考に、なりました…」
そう言って、真城は電話を切った。
「サイコーお前、そんなこと訊いても特定出来ないだろ?」
高木は非難したが、その後、
「でも……どっちだった?」
「……上げて、するって…」
「……やっぱり福田さん、か?」
「……見吉に、蒼樹さん攻めさせた方が早いし、確実なんじゃないのか?」
「……そう、だよなぁ」
結局後日、見吉がそのものずばり、便座のことを話題にすると、蒼樹は顔を赤らめたそうで、
「福田さんかどうかはともかく、好きな人には違いない」
という結論に、三人は達したのであった…。