お部屋選びは慎重に
本誌ネタバレですのでご注意。
福田くんちの作業部屋。僕は、今はいない安岡の椅子を福田くんの方へ引っ張ってきて、彼とひざをつきあわす体勢でネームにあれこれ、指示を出していた。すると、案の定というか福田くんは僕の指示に反論したりで議論は白熱、その時不意に、
「…トイレ」
福田くんがそう告げて、席を立った。トイレは、作業部屋と直結している。福田くんに、水を流しながら…ってデリカシーはなく、しばらくすると音は聞こえてくるし、心なしか臭いの方も…。いくら恋人同士といえども、「大」の臭いを嗅がされたくはない僕は、
「何でこんな、変な間取りの部屋にしたんだよ…」
そう言って嘆息したら、ドアの向こうの彼に聞こえてしまったらしい。
「…雄二郎さん」
中から、福田くんのすごむような声が聞こえてきた。
「…何?」
ドキドキしながら返事すると、
「上京した時、不動産屋一緒に回ったよな?」
あ、そういえば…。
「『家賃も安いし、僕、神保町から来るのに都合いいし、ここにしときなよ』って言ったの、誰だったっけ?」
…ハイ。私めでございます…。
「『ちゃんと、神保町から通う必要があるくらいになってくれよ?』…俺は、約束果たしたよな?」
「福田くん」
「何?」
カラカラと、ペーパーが回る音が聞こえる。
「連載作家なんだから、もっといい部屋移ろうよ。君、忙しいだろうから、僕が代わりに探」
「引越しはしねぇ」
僕の話を遮って、福田くんは水を流しながら大きな声で宣言した。
「連載作家だからこそ、そんな暇はねーよ。それに…」
「それに?」
バンと、大きな音でドアが開いた…立ち上がってるけどまだ、ジャージの下も下着も、おろしたまま…「見えてる」じゃないか!福田くん!
「気に入ってるんだ、ここ。さすがは雄二郎さんお勧め」
服を直しながら、彼はそう言って笑った。