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ありがとう

イルカ先生視点
彼が教師になった経緯


―戦って死ぬ。それが忍者だ。


少年くさい憧憬などではなく、重い脅迫観念として、それはずっと俺の内に在り続けた。のうのうと生きて、そして死ぬなど、あの世で両親にあわす顔がない。だから戦って死にたい…とそう、願っていた。だが、中忍の資格を得る頃、アカデミー時代からの恩師が俺に勧めたのは…自分と同じ道だった。


忍者にも、いろいろある。


戦って、勝つ。そのために、肉体も精神も極限まで鍛え抜いた者。
諜報活動のために変装や、他の職業技術に長けた者。


そんな彼らの幾人かは、必ず任務中に命を落とし、そして生き長らえた者も、いつかは老いる。忍びの技を跡絶えることなく伝えていくのは、里が里たるための、最も重要な使命である。だから、後進を育てる教師というのも、忍者の大事な職分のひとつではある。だが…。やはり、実際に任務を帯びて現場で働く、いわば第一線の者こそ偉く、貴いのだ…という意識は、なかなか拭えない。当然、俺は反発した。下忍として組んでいた他のふたりは第一線にでるというのに、なぜ俺だけが、と…。



「わかんねえか?イルカよ」
ジロリと、白濁しかかった両の目が、俺をにらむ。
「はい」
ふぅとため息をつき、老いた教師は眼鏡をはずして大事そうに磨き始めた。
「…はなっから、死ぬ気の奴ぁダメなんだよ」
「……!」
「てめぇひとり死ぬのは勝手だけどよ。あとの仲間はどうなる?え?ひとり欠けちゃあ、とんでもなく戦力ダウンじゃあねぇか」
「……」
「『仲間のために死ぬ』なんてのはよ、『仲間を殺すために死ぬ』ってぇことだ」
眼鏡をかざし、曇りが消えたことを確かめてかけ直す。
「それに、な…。ひと思いに死んでくれりゃあまだいいが…息があったらどうするよ?」
ごくりと、俺は唾を飲みこむ。
「息があったら、助けてやりてえって思うのが人情だよな。でもさ、敵地ならどうするよ?おぶっていこうなんざ、それこそ共倒れってやつよ」
生きて還らなければならないのだ。誰かひとりでも。
「だから、な…。せめて苦しまねえように…な、こう…」
節くれだった指が虚空の、在るはずのない喉笛を切り裂く。息ができない。
「そのあとで、なーんにも残らねえようにバラす」
汗がとまらない。
「おめぇは…そんなことを、仲間にさせてぇのか?」




(自分のために…死にたかったのか)
校庭を駆けまわる、子供達のはしゃぎ声が遠くに聞こえる。
(逃げたかった。死んで、逃げたかった…)
―死んだらもう、辛くはないから。寂しくはないから。
(なんで、俺は…)
俺を、そして里のみんなを生かすために、両親は、四代目は戦ったというのに…。
(逃げることばかり、考えていたんだ?)
情けなくて腹立たしくて、涙がでてくる。確かにひとりは辛かった。孤独だった。しかし生きてさえいれば、それを埋める手段(てだて)は、見付けられたかもしれないのだ。そしてそれをこそ、死んでいった人々は、生き残った自分に望んでいたであろうに…。
「先生!先生ってばよ!」
呼びかけられて、ハッと我に返る。
「なに、こんなとこでボ~っとへたり込んでんだよ?」
校庭の片隅。木にもたれて座り込んでいた俺を、金の髪を陽に輝かした少年が見下ろす。
(…やっぱ俺、現場にゃ向いてねぇな)
いくら考え事をしていたとはいえ、まだ下忍の資格も得ていない、気配の消し方すら身につけていない子供が近付いてきたというのに、気が付かないようでは。
「…天気がいいからって、のんきに昼寝してたわけ?」
涙の跡を、あくびのせいだと勘違いした…「してくれた」らしい。
「…お前らの成績があんまり悪いから、先行き不安で泣けてきたんだよ。俺の勤務評定に関わるからな」
「あ、それってば、先生の教え方が悪いんだよ。うん、そうそう、それに決まってるさ」
「ぬかせ!」
チャイムが響く。
「鳴ったぞ。早く教室戻れ」
「うん!」
元気に駆けていく、後ろ姿を見て思う。
(まだ…遅くはないか)
見付けられる。いや、もう見付けているんだ、俺は…。


「よいしょ、と」
立ち上がって尻をはらい、俺を待つ連中のところへ向かう。
―生きるために、生きていこう…。彼らの幸福に寄与するために。そしてそれが、自分の幸福のためなのだから…。
(ありがとう…)
現在(いま)初めて、俺は俺を生かした両親へ、心の底からの感謝を込めて、空を見上げた。


2010-02-20 : NARUTO :
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プロフィール

曜

Author:曜
バクマン。の雄二郎×福田がメインのSSブログです。福田×蒼樹も少々。ド短期運営になるかもしれませんが、よろしければお付き合いの程を。

なお、SSは話ごとに時期や設定が異なります。両思いだったり片思いだったり。キャラの性格や口調等、かなり独自解釈してたりで捏造率が高いかと思いますが、あしからずご了承願います。


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